第十七話

小説「beside-座る人」:第十七話

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二人目の依頼者:Travis氏 2回目

Travis氏から二度目の依頼。

時間は前回よりも少し遅い20時30分。

場所は前回と同じ新宿駅でも、店は雑居ビルの中にあるダイニングバーだった。

夜の新宿駅

 

前回の焼き鳥屋Tとは違い、お洒落で落ち着いた雰囲気のお店。

僕には場違いのようで店の中に入るのに戸惑いを感じた。

 

ダイニングバー

 

受付でメールで指示された『大久保』という名前を告げると、カウンター席に通された。

「あ、どうも」

Travis氏は前回と同じようにサングラスをして瓶ビールを飲んでいた。

 

隣の席に腰かけると、

「今日も先に飲ませて頂いています。すみませんね」と言ってグラスを持ち上げて頭を下げた。

そして「えっとコーラでいいかな?」

とたずねてきた。

頷くと店員を呼びコーラと赤ワインのボトルを注文した。

 

Travis氏が瓶ビールを手酌でコップに注ぎ、瓶を空にするのを待って僕たちは一通りの手続きを済ませた。

「今日は何を話そうか本当に迷った」

赤ワインをグラスに注ぎながらTravis氏が話し出した。

赤ワイン

 

「3回という回数限定だからね。

最終回に話すことは決めてあるんですよ。

で今回、これは本当に迷った。

話したいことが沢山あり過ぎてね。

ま、全て僕の好きな事についてなんだけれどもね。

まず、第一候補として挙がったのが洋楽。

洋楽

 

ロック、ポップス、ラップ、ヒップホップ。

何でも聴くんですよ。

雑食系でね。

あるジャンルに固執するのって、僕のスタイルじゃないんですよ。

良い物は良い。

楽しいものは楽しい。

そう思うんですよ」と言って、同意を求めるようにサングラスが僕の方を向いた。

ティアドロップ型サングラス

僕は邦楽を少し聴くぐらいで洋楽については門外漢。

音楽について意見を述べられるような造詣は無かったので曖昧に頷いた。

 

「あ……でも、音楽の話は興味のない人には、全く興味が無いからやめようと思ったんですよ。

で、第二候補として挙がったのが釣り。

僕はルアーとフライをやるんですよ。

ルアーはバス。

ルアー・BASS

 

河口湖や霞ケ浦、たまには琵琶湖に遠征に行きます。

いつかは八郎潟にも行ってみたいと思っているんですよ。

 

フライは渓流で山女魚や岩魚を狙います。

千曲川や木曽川がホームグランドです。

自分でタイイングしたフライで釣る醍醐味。

フライフィッシング・タイイング

 

これがまた格別なんですよ。

全く大人気ない話なんですが50歳も過ぎて、釣行する前日の夜はウキウキしてしまってなかなか眠れないんですよ。

魚がヒットした時のあの興奮が、あの感触が、ビリビリと思い返されて」と言って話を切り、サングラスの瞳が僕の反応を窺った。

 

僕は釣りをしたことが無かった。

なので、これも曖昧に頷くことしかできなかった。

 

「あ、釣りをしたことはあります?」

正直に首を振った。

「……釣りをやったことが無い人にあの興奮を!

なんて言ったって、共感を得ることはできませんよね。うん……」

 

Travis氏はジャケットの内ポケットからタバコを取出しジッポで火をつけた。

カチンッとライターの蓋を閉じ、一人でうんうんと頷いている。

ジッポライター

 

話し出したころの勢いは失速してしまっていた。

僕は少しばかり申し訳ない様な気持ちになった。

興味が無い話でも依頼者が話しやすいよう適度な相槌を打つのが、座る人の役割ではないのかと反省した。

 

だがこの状況をどのように改善したらいいのか。

話すことのできない僕は、考えあぐねることしかできなかった。

 

しばしの沈黙の後、Travis氏は赤ワインという名のガソリンをグラスに注ぎ、一気にグラスを呷った。

そして状況を仕切り直そうという気持ちの表れなのだろうか、先程よりも若干大きな声で話し出した。

 

「で、第三候補に挙がったのが、これはちょっとマイノリティーな趣味なんですが、古いアパートや団地、廃墟などのわびさびというか、趣のある建築物を鑑賞するのが大好きでして……」

廃墟

 

『趣のある建築物』という言葉に、僕はお腹を空かせた犬がエサに飛びつくように飛びついた。

モンサンミシェルや古城が好きな僕には同系列の嗜好性だと思えたのだ。

モン・サン・ミッシェル

 

そんな僕の様子をTravis氏は見逃さなかった。

「え!? もしかして、興味がある!?」

力強く頷く。

「本当に!? いやぁ、正直この話はできないと思っていたんですよ。

ネット以外にリアルで話せる人には出会ったことがありませんでしたから。

でも、実は最近の一番の趣味はこれなんです」といって、Travis氏は鞄から一冊の写真集を取り出した。

 

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